1.入国と出国
今年(2000年)8月上旬にイギリスとアイルランドを訪問し、高校生のヨー ロッパ研修を見てきました。たぶん4回目の訪問です。
日本からアイルランドへは直行便がないので、ロンドン、フランクフルト、パリ、アムステルダムなどで乗り継ぐ必要があります。今回は生徒達と同じように、ロンドン経由で行きました。
イギリスの入国審査は割と時間がかかります。かつて、5分以上も質問されたことがありました。これまでに聞かれたことのある質問は次のようなものでした。
「どこから来ましたか?」(日本人だから日本から来るとは限らない。)
「この国へは初めてですか?」
「前に来たのはいつですか?」(初めてでないと答えたので。)
「どこに行きますか?」
「そこまでどの交通手段で行きますか?」
「何日滞在しますか?」
「そこで何をしますか?」
「滞在するのは友人宅ですか?」(滞在先が個人名だったので。)
「滞在が終わってから、どこに行きますか?」
「所持金はいくらですか?」
「おみやげを持ってきましたか?」
ロンドン・ヒースロー空港の入国スタンプ。
ビザなしで6か月滞在が認められるが、就労はできない。
たいていの場合、傾いて押してあり、このようにインクがかすれて読めないこともある。
入国スタンプの上に書いてある文は「6か月の入国許可、公的扶助(注:健康 保険など)の対象外」。
この質問はパック旅行の観光客の場合は短いのですが、個人客で、入国してから働く(給料をとる)ように見える場合は長くなります。私の経験では、日本人としてはラフな服装で、前後に日本人が余り来ないときには質問が長くなります。また、行列の最後の場合にも長くなります。これは、入国管理官にとって、そのあとしばらく暇な時間が続くので、暇つぶしの意味で世間話をしているとも感じられます。
あとで聞くと、今回、生徒達が7月にロンドンに着いたときには、前に並んでいた中国人の団体客の入国審査で長く待たされたので、予定した乗り継ぎ便に乗れなかったそうです。こんなに待たされるのは珍しいことですが、イギリスではアメリカの入国審査に比べて数倍の時間がかかることが多いようです。私の今回の入国では、3つの質問(行き先、日数、その後の予定)だけで入国のスタンプを押してくれました。
ところで、この入国手続きはヒースロー空港のアイルランド行きのゲートに向かう通路で行われます。しかも、EU(ヨーロッパ共同体)加盟の国の人はパスポートの表紙を見せるだけで通れます。アイルランドに向けてイギリスを「出国」するときにイギリス「入国」の審査があるので、奇妙な感じがします。
アイルランドのダブリン空港に着くと、入国審査はありません。税関はありますが、「非課税」と書かれた通路を通ると、書類を出すのでもなく、質問があるのでもなく、フリーパスで通れます。以前に1度だけ係官が立っていたことがありましたが、「通れ」と手を振ってくれただけでした。
帰途(出国)の場合、ダブリン空港では航空会社のチェックインの時に、航空会社の地上職員から「あなたの荷物はこの他にありますか?」「預かった荷物はありますか?」などと聞かれます。たいていの質問は「ノー」と答えるといいようになっています。
ヒースロー空港に着いて乗り継ぎ手続きをするときに、航空会社が変わるせいか同じような質問が繰り返されます。2年前にロンドンからアメリカのワシントンに向かうときに「カメラを持っていますか?」と聞かれたことがあります。これに「イエス」と答えると、「カメラをイギリスで修理に出しましたか?」と聞かれました。「ノー」と答えると次の質問に移りました。
後で考えたら、カメラを修理に出したら、それに時限爆弾を仕掛けられることがあると気付きました。実際に事件が起きたかどうかは知りませんが、あり得る話です。
2.気候と天気
アイルランド島とアイルランド共和国は誤解されやすいのですが、同じではありません。アイルランド島の北部約6分の1(北アイルランド)が東のグレートブリテン島と共にイギリス連合王国を構成し、残りの訳6分の5がアイルランド共和国となっています。北アイルランドは紛争が続いていますが、アイルランド共和国には紛争はありません。
アイルランドはかなり北にあり、緯度で比べるとダブリンは北海道よりも北で、樺太(サハリン)の北端の位置です。北だから夏は涼しいのです。私は夏にしか行ったことがありませんが、住宅地を歩いていると、Tシャツやタンクトップの若い人が立っているそばを、コートを着た老人が歩いているという光景は珍しくありません。
冬は寒いだろうと思って聞いてみると、「余り寒くないから、冬にも来ませんか」と返事が返ってきました。そういえば、メキシコ湾に太陽の光が降り注ぎ、暖まった海水がメキシコ湾流(暖流)となってアイルランド島とグレートブリテン島にぶつかるので、アイルランドとイギリスの冬は寒くならない、と中学の「地理」の授業で聞いたことを思い出しました。
一口で言うと、夏の最高は25度、冬の最低はマイナス2度の程度です。
天気は「1日で1年の天気を経験できる」ほど、よく変わります。ほとんど毎日雨が降りますが、すぐに止みます。「イギリス紳士はコウモリ傘を持っているが、雨が降っても開かない」と聞きますが、アイルランドでも雨の中で傘をささずに悠々(ユウユウ)と歩いている人にはよく出会います。日本だと、雨が降りだすと走り出す人が多いのですが、アイルランドではすぐにやむと知っているので、雨が降り出しても走る人には出会いません。
3.泊まるところ
アイルランドの住宅は、一戸建ては少なく、日本では見ることがない二戸建てがたくさんあります。一軒の家が道路から見て中央で左右に区分され、同じ間取りで(左右対称)、二階建てです。屋根裏に部屋を作って三階建てになっている家もあります。4戸の住宅がつながった長屋のような家もあります。生徒達はこのような家に泊まります。
ホームステイは、この住宅で家族と一緒に生活することになりますが、有料であるために一つのベッドルームを与えられます。バスルームは共通です。家族と一緒に使いますが、2カ所にあって1つを客用にしている家もあります。
生徒達はダブリンの学校からの紹介でホームステイをします。その学校に通っている他の生徒が別の部屋に泊まっていることもあります。私はホームステイをしたときに、これまでにイタリアから女子生徒やブラジルから来た20代の男性(カトリック修道士)と同宿になったり、フランスから再教育を受けに来ている30代の女性と同宿になったり、イタリアから生徒を連れて来た50代の女性教員と同宿になったこともありました。
食事は家族と一緒のこともありますが、たいていの場合、家族は遠慮気味にしていて、早出の時は先に食べ、それ以外は後から食べています。居間は家族と共通になります。夕食後に家族や他の宿泊者と一緒に歓談することもあります。
今回はB&B(Bed and Breakfast、朝食付きの簡易旅館)に泊まりました。ここも学校からの紹介です。ホームステイのときと家は同じ作りですが、旅館の雰囲気になっています。客室の扉に部屋番号が書いてあったり、食堂を広くして客用にしてあったり、食堂の隅にある机には観光地のパンフレットや優待券などがおかれていたりします。家族の使用部分は宿泊者の使用部分と完全に区分されていました。食事は、客はきれいにセットされた食堂で食べ、家族は台所で食べていました。そのため、家族と歓談するという機会は得られませんでした。
4.学校
生徒達は、近ければ歩いて、遠いときはバスで学校に通います。この時期はイタリアとスペインの生徒が来ていて、混合クラスを作ります。今年に限って言えば、最終日の8月8日(火)は前日がバンクホリデーの休日で土曜から3連休だったために、他の生徒は学校を離れていて、東京文化の生徒だけのクラスがあり、その後で一人一人に修了証書が渡されました。
クラスは10人前後です。教員は生徒一人一人に質問をして答えさせます。初歩の段階では、答の内容が正しいかどうかより、英語で答えること自体に重点が置かれるようです。教材を使った授業では、自分の意見を言うように求められます。例文はありますが、教員は「あなたの場合はどうですか」、というような質問をします。
これまでの経験では、どうしても日本人は遠慮がちになり、イタリア人やスペイン人は妙なアクセントで話します。日本人が「私は英語が話せません。」と言うレベルよりも低いレベルでも、彼らは「英語を話せます。」と言います。国民性の違いというものか、いろいろな言語に触れる機会が多いせいか、違いを痛感する場面です。この最終日(8日)のように日本人生徒だけというは、いいようにも思いますが、違った経験をするという意味では物足りなく感じました。
最終日には終了式があり、主任の先生は修了証書と成績書を生徒一人一人に渡し、握手をします。厳かな、というよりも、楽しい終了式です。
なごやかな終了式
終了式のあとで、先生達と記念撮影
5.ホストファミリーと先生を招くパーティー
生徒達はダブリン生活の終わり頃にダブリンでお世話になったホストファミリーと先生を招いてパーティーを開きます。バイキング式の食事のあと、ゲームをしたり、音楽演奏をしたり、楽しいひとときを過ごします。
お世話になった先生方浴衣を着て参加した生徒とそのホストファミリー
6.ロンドン滞在
ダブリンからの帰途、ロンドンに泊まり、大英博物館、ウエストミンスター寺院など、市内見学をします。ミュージカルも見に行きます。今年は「オペラ座の怪人」でした。ダブリンと比べて大きな都市なので、東京に戻ったような感じもしますが、やはり外国です。日本人観光客は大勢います。ウエストミンスター寺院では旧知の牧師さんでロンドンに滞在している方に偶然出会い、驚きました。
テムズ河畔で、国会議事堂を背にして。
7.おわりに
中高では、このヨーロッパ研修の他に、カナダ研修もしています。異文化を体験し、新しい目を開き、他人に迷惑をかけないマナーとスマイルをさらに押し進めています。