財団法人文化普及會の一般

森 本 厚 吉  

一、設立の由来

 社会改造の根本義は国民生活を因習の囚はれから開放して之を合理化し、能率の高い生活を国民の大多数者にも楽ましめることであると信じます。それで数年前から講義録『文化生活研究』月刊雑誌『文化生活』『経済生活』等生活問題に関する論著の発行、或は各地に放ける講演等によつて、所謂文化生活運動を続けて参りました。これ微弱ながら私が大学で経済学講座を担当して居る公職上の関係と、特に消費経済学の研究に興味を有して居る理由とにより、時代の要求に応じて奮闘しようとする誠意に動かされた結果に過ぎないのであります
 幸に今日私共の運動は幾分の効果を収める事が出来ましたが、今一層徹底的に且又奉仕的に目的の貫徹を期する必要を認めて居る時に当たつて、政府当局が社会改善の根本的手段の一つとして私共の主張をもつと具体化させて見たいと言ふ希望から資金五十萬圓融通の約束を受けました。それで私は先づ貧者の一燈に過ぎない僅ばかりの持物を提供し、同志の助力を得て、この財団法人文化普及會を大正十一年十二月に設立しうるに至つたのであります


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二、目的及事業

 人に仕へる生活ほど尊くして且幸なものはないとの信念のもとに社会に奉仕したい誠意にはげまされて本会が設立されました、そして現代社会の多数者が貧乏人である以上、その不幸な人たちに奉仕するのが、本会の目的であります
 けれども此の大きな社会事業を行ふには本会は未だ余りに微力であります、それで、私共は二十年計画をたてゝ目的の達成をはかり唯今はその第一期として先づ生活問題を研究して其の知識の増進を基調とし、精神的及物質的に文化の普及をはかるのであります
 之が為に教育及供給事業の両方面に次の通り活動をすゝめて居るのであります

其一

女子経済専門学校

 (一) 女子経済専門学校 に於ては高等女学校卒業者に三ヶ年現代婦人に必要なる経済学を主とした大学教育を授け、新時代の要求する良妻、賢母、教員其他の職業婦人を養成いたします

 (二) 消費経済研究所 に於は主として消費経済学殊に衣食住にかんする学理を研究しその実験を行ひます
 (三) 文化普及會出版部に於て月刊雑誌『経済生活』その他図書の出版、講演会及び講習会の開催等によつて大学教育普及事業[ユニバーシテイエキステンシヨンオウク]を行ひます

其二

 (四) 住宅問題の根本的解決をはかるため、先づ第一期に於ては現代的設備を有する模範住宅と其科学的家庭経営の実際を示すにふさはしい最新式合同住宅館「文化アパートメント」を建設し之に進歩的家族六十五世帯を収容します
第二期に於ては月収百圓内外のものを標準としたる住宅、第三期に於ては貧民住宅改善の為に理想的テネメント・ハウスを建設いたします
 (五) 文化アパートメント食堂部を経営し現代科学の教ふる標準食糧の実例を示し其知識の普及をはかると同時に社交室、食堂、宴会室、屋上庭園[ルーフ ガーデン]其他の設備を公開して品位ある各種会合を奨励し以て社会改善の一助と致します


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三、財団法人文化普及會寄附行為

  第一章 目的及事業

第一條 本会は住宅の改良其の他の生活の合理化に必要なる事業を行ひ且つ之が知識の普及を図り以て国民生活を向上せしむるを以て目的とす

第二條 前條の目的を遂行する為左の事業を行ふ

 一 現代生活に必要なる最新式設備を有するアパートメント・ハウス及中流階級模範住宅を供給すること
 二 家庭及社会生活を合理化するに必要なる学科と実習を授け家庭経営指導者を養成すること
 三 生活に関する理論と実際の研究を行ひ雑誌の発行書物の出版及講演会、講習会を開催すること
 四 其の他本会の目的を達成する為必要なる附帯事業

  第二章 名称及事務所

第三條 本会は財団法人文化普及會と称す

第四條 本会の事務所は東京市本郷区元町一丁目五番地に之を置く

  第三章 資産及会計

第五條 本会の資産は左の各号より成る

 一 本財団設立者森本厚吉の寄附する左の資産
  北海道札幌市北十二條西三丁目一番地所在
  西洋造二階建家屋
  給水設備付 一棟 延建九十余坪

 二 本会設立後寄附せらるべき金員及物件

 三 本会設立後建設又は購入する動産及不動産

 四 其の他の収入繰越金

第六條 本会の資産は現金又は有価証券は確実なる銀行及郵便官署に預入れ不動産は評議員会の決議に依り管理方法を定む

第七條 本会の経費は左の諸収入を以て之に充つ

 一 資産より生ずる収入
 二 本会事業に伴ふ諸収入
 三 其の他の収入

第八條 本会の会計年度は毎年四月一日に始り翌年三月三十一日に終る

第九條 本会の予算は毎年評議員の議決を以て之を定め決算は其の認定を受く

  第四章 役  員

第十條 本会に左の役員を置く

  理   事   三名     内一名を理事長とす
  評 議 員   八名以上      

第十一條 理事は評議員会に於て選任す
  理事長は理事の互選とす

第十二條 理事長は本会の事務を総理し本会を代表す
  理事長事故ある場合は予め定め置きたる他の理事其の職務を代理す

第十三條 評議員は理事会の同意を経て理事長之を嘱託す

第十四條 理事又は評議員の任期は各四年とす但し再任を妨げず
  補欠に依る役員の任期は前任者の残任期間とす

第十五條 役員は任期満了後と雖後任者の就任する迄は其の職務を行ふものとす

第十六條 理事長は本会に顧問幹事又は其の他必要なる職員を置くことを得

  第五章 評議員会

第十七條 評議員会は必要の都度理事長之を召集し本会に関する重要なる事項を審議す
  評議員会の議長は理事長之を掌る

第十八條 評議員は評議員半数以上出席するに非ざれば会議を開くことを得ず但し同一事項に付召集再囘の場合は此の限に非ず

  第六章 解  散

第十九條 本会は民法第六十八條第一項第一号及第二号の事由あるに非ざれば解散せず

第二十條 本会の解散は評議員会の決議を要す
  前項の決議は評議員全員の四分の三以上の同意あることを要す

第二十一條 本会解散の場合に於て残余財産ある時は評議員会の決議を経て之を同種又は類似の目的を有する事業に寄附す

  第七章 附  則

第二十二條 本寄附行為の変更は評議員四分の三以上の同意を経且主務官庁の認可を受くるを要す

第二十三條 本会の事業施行に関する主要の細則は評議員会の議決を経其の他は理事長之を定む

第二十四條 本会設立当初の役員は設立者之を嘱託す。設立者森本厚吉は第十一條及第十四條の規定に拘らず本会設立と同時に理事長に就任し其の任期は無期とす


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四、財団法人文化普及會役員

  理 事 長       
帝大教授法学博士 森 本 厚 吉          
ドクトル・オブ・フイロソフイー         
         
  理事兼評議員      
衆議院議員法学士 星 島 次 郎   聖路加病院内科長 橋 本 寛 敏
       医学博士   
         
  評議員(ABC順)      
帝大教授理学博士 五島清太郎   櫻蔭女学校長  後 閑 菊 野
         
文化アパートメント管理者 森 本 靜 子   早大教授工学博士  佐 藤 功 一
          
朝日新聞専務法学博士 下 村   宏   米国ペンシルバニア病院監督 M・サツトレー
        バチエラー・オブ・ロー     
          
ヴオーリズ建築会社長 W・ヴオーリズ   東京女子大学長 安 井 哲 子
バチエラー・オブ・フィロソフイー           
          
東京電気会社長 山口喜三郎   帝大教授法学博士 吉 野 作 造
ドクトル・オブ・フイロソフイー           
          

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五、財団法人文化普及會後援者及寄附者

後  援

 本財団の事業は公私多数後援者の同情によつてなされて居るのでありますが公人としては特に内務省社会局、東京府庁、文部省、大蔵省、其他に負ふところが多いのであります

寄  附

財団法人文化普及會森本厚吉氏寄附行為の他、本会経営の社会事業に対しての主なる寄附は次の如くであります

主なる寄附者(第一囘)

株式会社大林組     五〇、〇〇〇円
ヴオーリズ建築事務所      五、〇八六 
工学博士佐藤功一氏      一、五〇〇 
オーチス、エレベーター      一、〇〇〇 
株式会社総代理店米国貿易会社      
顧問技師A・Pテーテンス氏         二〇〇 
ブルーバード長井バネール氏         六〇〇 
東京乗合自動車株式会社       二、〇〇〇 
セール・フレーザー株式会社         二〇〇 
鈴木彦次郎商店      
(ラヂオ聴取装置一式)         五〇〇 
其  他         二八八 
総  計    六二、〇七四 


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    昭和四年二月八日印刷納本
    昭和四年二月十日発    行
      文化アパートメントの生活
 不            定価二十五銭
      編  者    森  本  厚  吉
 許    東京市本郷区元町一丁目五
      発行者    坂  内  憲  策
       
 複    東京市本郷区真砂町卅六番地
      印刷者    左  手      薫
 製     
         東京・本郷・お茶ノ水
      発行所 財団法人文化普及會
        電話小石川二九三二・五九〇

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