「出産・出生のヒューマニゼーションに関する会議」に参加して

大出春江


 11月2日〜4日の3日間にわたりブラジルのセアラ州フォルタレーザ市で開催された「出産・出生のヒューマニゼイションに関する国際会議」に参加するため、本学の助成を得て海外出張を行った。
 この会議に先立ち、州の海岸部にあるマタニティケアサービスの見学をすることも、今回の出張のもう1つの目的だった。
 この会議にはブラジルをはじめとする南米、ヨーロッパ、アフリカ、日本、北米の各国から、およそ1700名が参加し、予想を超える参加者数に、当日になってから急遽、大会議室を変更したほどだった。出席者は助産婦、看護婦、産科医、小児科医の他に、公衆衛生や社会科学系研究者、ジャーナリスト、政策担当者、と極めて学際的な国際会議となった。
 なぜ、ブラジルでこの会議が行われたのか。ここで少しブラジルについて簡単に触れておきたい。ブラジルは多くの自然資源に恵まれ21世紀の国といわれてきたが、他方ではストリートチルドレンやスラムを抱える貧富の格差の激しい国でもある。
 人々の健康水準について、1997年のブラジルの統計によると、日本の22.5倍ほどの国土に1,570万人を抱え、男性の平均寿命は63.9歳、女性は71.4歳。また小学校4年以下の学歴の人々が国民全体の3分の1を占め、地域によっては半数を上回る所もある。乳幼児死亡率は千人あたり37.5、妊産婦死亡率は十万人あたり約80である。ちなみに、日本の乳児死亡率は3.6、妊産婦死亡率は6.9である。つまりこの健康水準だけをみてみると日本の昭和30年代前後というところだろうか。
 出産の医療化は先進国においては共通の現象ではあるが、ブラジルにおいては極端な形で出現しており、極めて高率(平均40%)の帝王切開率となっている。
 こうしたブラジルの出産の医療化に対し、アメリカで産科学を学んだセアラ州出身のガルバ・アラウジョ教授という産婦人科医が「出産・出生のヒューマニゼーション」という運動を始めたことが、今回の会議開催のきっかけとなっている。この会議はまたJICAがこの地で行ってきた母子保健プログラム活動の成果を公表する場ともなっていて、日本からも50名近い助産婦さんが参加していた。
 公衆衛生医のマーズデン・ワグナー氏、ブリティッシュ・コロンビア大学で助産教育を行っているレズリー・ペイジ氏、医療人類学者のロビー・フロイト氏の報告が大変興味深かった。片道30時間近い長旅だったが密度の濃い交流が得られた海外出張となった。

出典:東京文化タイムス 平成12年12月10日 第338号 p.3





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