札幌時計台/新渡戸稲造展パンフレット

新渡戸稲造と東京文化学園

札幌時計台/新渡戸稲造展パンフレットより

昭和8年春、小石川の新渡戸博士邸で博士を囲む女子経済専門学校(東京文化短期大学の前身)の生徒たち。右端が森本厚吉。

札幌時計台/新渡戸稲造展パンフレット


明治、大正、昭和初期の日本を代表する偉大な教育思想家であり、かつ国際的な知識人だった新渡戸稲造は、昭和3年(1928年)東京女子経済専門学校(現在の東京文化短期大学)の校長に就任した。昭和3年と言えば、新渡戸の受洗50周年の記念すべき年に当たっていて、そちらが一般的には有名だが、女子教育でも重要な最後の仕事にかかった年でもあった。
新渡戸稲造は、かねてから日本における女子教育の改善を考えており、その精神を受け継ぐ愛弟子の森本厚吉を援けようと決意し、初代校長に就任した。




札幌時計台/新渡戸稲造展パンフレット

昭和6年、女子経専附属高等女学校は女子経専と旧成美高等女学校の教員を合体し、陣容を整えた。
そのときに校長新渡戸稲造は「教職員心得」を制定して全教員の賛意を求めた。
この教職員心得は本学園の教育精神として今日にまで伝承されている。


教職員心得
東京女子経済専門学校附属高等女学校校長

本校の教職に就くに当り私は自ら心得置き度き事がありますから左の通り陳述してご助力を得度く存じます 若し幸にして御同意下さらば御署名を願います

東京女子経済専門学校附属高等女学校に於て
昭和六年四月四日 新渡戸稲造


一、 人の子を預る以上は親心を以てこれに対すること
一、 学課を授くるに智育のみに偏せざるよう思慮と判断力の養成に努むること
一、 宗教は全然自由たるべきも生徒に対し宣伝がましきこと無きよう心得ること
一、 毎日授業を始むるに当り一分間沈黙を守ること
一、 予習は時間の許す限り校内に於てなすよう奨励すること
一、 生徒に関係ある人より贈り物ある時は決してこれを受けざること 但し辞し難きときはその処分を校長若しくは主事に相談すること
一、 同僚に就いて互いに批評がましきこと又金銭の貸借を慎むこと
一、 学校の経営行政又は人事につき改善を要する件ありと思うときは遠慮なく直接校長又は主事に之を諮り生徒又は第三者にはからざること
一、 生徒に時間励行勤勉努力等の範を示す意味においても出勤退出又は授業時間はこれを厳守すること


新渡戸稲造の書(東京文化学園所蔵)
札幌時計台/新渡戸稲造展パンフレット For his Friend Morimoto(森本兄へ)
Haste not & Rest more (急がないでもっと休め)
I.N in Be half of his Family(あなたの家族に代わって。I.N.)

森本厚吉に宛てて書かれている。森本の働き過ぎに対して「もっと休みなさい」との意味を含んだもの。
これは次のゲーテの文をもじったもので、新渡戸稲造のユーモアと愛弟子への愛情が表れている。

Haste not,Rest not. (急がず、休まず)
I.Nitobe

出典は、ゲーテ「温順なクセーニン」第二集
ゲーテを崇拝したカーライル。カーライルの影響を強く受け、その著書「衣装哲学」を愛弟子・森本厚吉に譲り渡した新渡戸稲造は、カーライルも好んだゲーテのこの言葉を森本厚吉に送った。


心清者福也「心の清き者は福(さいわい)なり」
新約聖書の「マタイによる福音書第5章8節」の言葉。

心外無別法「しんげむべっぽう」
 吾人の認識する諸法、即ち森羅万象は皆各自の心識から出たもので、心とは別にその物が存在するのではないということ。
出典は楞厳経(りょうごんきょう)
(大漢和辞典 諸橋轍次著 巻四4343頁による)


Sartor Resartus/トマス・カーライル
札幌時計台/新渡戸稲造展パンフレット 新渡戸稲造は30回以上も読み返したトーマス・カーライル著「サーター・リザータス」(衣装哲学)を、明治31年(1898年)に札幌を離れる際に愛弟子・森本厚吉に手渡した。森本も何度も読み返し、創立した女子経済専門学校(後の東京文化短期大学)に寄贈した。

この本には、森本厚吉の親友である有島武郎(札幌農学校の同期生)が挿絵を描いた。後に、有島の依頼を受けた森本は、狩太(かりふと:今のニセコ)・有島農場の解放を進めた。

この本は、白紙を挟んで再製本され、書き込みができるようになっており、新渡戸稲造と森本厚吉の書き込みが随所に見られる。

※本文は「新渡戸稲造研究」第四号(財 新渡戸基金刊:1995)所収
 藤井茂著「森本厚吉 新渡戸稲造の愛弟子」(盛岡タイムス社刊:1996)
 藤井茂著「東京文化学園の誕生とその精神」(東京文化学園刊:1997)
などを参考にしました。

2004.6.

制作:学校法人東京文化学園
協賛:東京文化学園同窓会

札幌市時計台「新渡戸稲造展」2004年7月〜9月



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