さて、今日(1/29)のことであーる。私は田端に住んでいる。
東田端は隣町である。
しかし、その間を鉄道の操車場が隔てているせいか東田端を足で歩いたことがない。
東田端の職人の所へはいつもクルマかママチャリで行っている。
が、先週久々にギックリ腰をしたので、リハビリをかねて歩いて行ったしだい。以前から気になっていたカレー屋がある。
どうもインド人の経営らしい。
インド人のカレー屋は何処でも高級(値段も)なのだが、ここはすごい。
古いモルタル2階建ての1階。
間口2メートル強。
引き違いサッシのワンセットでおしまい。
ノリとしては、ついこないだまで「御名刺印刷します」ってなB5の張り紙してあって(しかも少し斜めになってる)オバチャンが一人でガッチャン々々とやってたって感じの店構え。今日こそ千載一遇の好機なりとばかりに中に入る。
無表情のインド人が一人、奥行き数メートルの店内にヒマそうにっ座っている。
客は8人も入ればいっぱいだろう。
内装は、まるで幼稚園の室内のように至って手作り。
訳の分からない装飾が貼ってあったりする。
奥には貯蔵庫に使っているのであろう「森永アイスクリーム」の冷蔵庫がドデーン。
それだけ。私の研ぎすまされた感性が叫んだ。
「気に入った!」
これをショボイと感ずる人は、マスコミの流す情報に哀れにも踊らされ続けている付和雷同な劣等なる消費者である。カレーのメニューは4つのみ!
ベジタブルカレーとチキンカレーは理解しやすい。
が、その他の2つは初めての名前にて正体が判らない。そこでメニューを指さし、大得意のエーゴで問いかける。
「ほわっと いず じす?」
インド人は6千年の哀れみを含んだ視線を落とし言う。
「カリー」
・・・そりゃそーだ。「ふいっち いず もーすとほっと。 じすわん? おあ、ざっとわん?」
「セーム」
ふーん、そーなのね。
さて次はカレーの種類である。
「ほわっと いずじす めいどおぶ。 めいどふろむ。 めいどばい・・」
こーゆー場合は、意志を伝えるのが肝要でありまして、文法などは大山高校グラマー赤点の栗田はジェンジェンわからんのよーん。
「みーと? さむかいんどおぶべじたぶる? おあ ふぃっしゅ?」
すると印度氏。
「肉」
なーんだ日本語できるんじゃないの。
ガイジンに対し初めからエーゴで話しかけるのは日本人の劣等感の表れであり悪い癖だわ。
「じゃー、こっちのはなーに?」
「◇×△○」
「へ?」
「ワタシ ニホンゴ デキマセン ムーゴ デキマス」
「あんた、ムーゴじゃなくてエーゴだよ」ともかくウィッキーさんもビックリの楽しい会話が続き、4つしかないカレーは2つしか作れないことも突然判った。
メニューの稼働率50パーセントとは見上げた度胸だ。
私はそのキップの良さに感動して言った。
「はらたいらに500点だ!」しかし、素材不明のカレーの正体がどーしても判らない。
印度氏のムーゴ、いやエーゴは私以上にナマリが激しいのだ。
(おそらく向こうも、そー思っていただろう)で、ソレをオーダーすれば正体が判るだろーてんで、その不明カレーを頼むことにした。
印度氏、奥のキッチン(って言っても4畳半アパートの台所ノリ)に入ると、コンロにボッと火を着ける。
おいおい、これから作るのかよ。
一体いつになったら出来るのやら。
ウナギ腹ってのは聞いたことがあるが、カレー腹ってのは初めてだ。
私はてっきり嬉しくなって言った。
「よっ、粋だねぇー印度の大将!」
ますますこの店が気に入ったしだい。ヒマなので店内を改めて眺める。
天井には、小学校の教室にあるような棒の蛍光灯。
なんだか解らないけど、おそらく印度のヒラヒラしたもの。
なんだか解らないけど、おそらく印度の木彫りのなにか。
なんだか解らないけど、おそらく印度の灰皿らしきもの。
なんだか解らないけど、・・・・・。天井近くの欄間にビデオテープがビッシリ。
背表紙の文字を読む。
アルファベットなのだが、文字の配列が突飛である。
おそらく現地語をアルファベット表記したのだろう。
むりやり読む。
「ドンカムドン」
「シャー」
「カリムトハスラン」
「サランブ ブラザー」
うーん、印度文明六千年はまことに味わい深い。
観てみたいなぁー。
これで、印度映画のポスターでも貼ってあれば言うこと無しよね。テーブルの上のコップには、スプーンとフォークが挿してある。
当然手にする。
ステンレスだね。
しかしフォークの格好が少し珍しい。
これもアチラから持って来たモノだらうね。
こーゆーどーって事ないトコが好きなんだ私は。さて食事である。
まずガラスコップに水が出される。
飲んでみる。
水道水ではなく、至極上等であるぞ。小さなサラダが出される。
レタスに缶詰のコーン、そしてドレッシング。
そんなモンで充分であるわね日本人には。さて、長らく待たれた望まれた待望のカレーである。
細長くて黄色いご飯。
正確に円を描くナン。(ペラペラだが温かい)
そして正体不明カレー。黄色いね。
真ん中にゆで卵が浮かんでいる。
温かいところをみると、いま茹であげたのであらう。
(カレーと一緒に殻ごと煮たとも考えられるが・・)
内容は、どーも豆らしい。
大分煮込んであるので形がグヅグヅであるが豆だろうコレは。
思ったよりも辛くないね。
お味は人それぞれ好みもございましょうが、個人的にはもっと辛くてもモアーベターよパクパクモグモグ。さてさて、食事も満足の内につつがなく終わる。
昼時ってのに、客は未だに私一人。
印度氏、よほどヒマなのか、メニューには付いてないミルクティーを出してくれる。印度人の紅茶はうまいんだぞ。
先日ある印度人に、ナントカいう木の実をナントカいうナントカにまぶして作ったナントカなるモノを入れたナントカという紅茶をご馳走になったがナントモ非常に美味かった。
その事務所は印度人だらけなんだけど、その人が煎れてくれた紅茶は、彼の故郷特有の葉と煎れ方であるそーだ。
(仕事の方は空振りだったけどね、ちぇっ)で、そんなコトを思い出しながら店の奥を見ると・・・
リプトンのティーバッグが鎮座おわしている。
郷にいれば郷に従え。
やはり日本人にはコレが一番よ。さて、先ほどから気になっていたビデオである。
「ゆーばぶ めにー びでおぴくちゃー。いず ざっと いんであむーびー?」
「△○◆?」
おそらく「あんた見たいのか?」と言ってると勝手に解釈する。
「いえーす ぷりーず!」なんと嬉しいのだらう。
少しまえ「踊るマハラジャ」なる映画がヒットした。
観たかったのだが観られなかったのよ。
予告編を観るかぎり、印度映画は無条件に面白そうなり。
それが今、レアもので、しかもこの環境で鑑賞できるのだ。印度氏、12インチ画面のビデオをガチャガチャやってる。
すると途端に印度音楽と数百人はいるだろうサリー女性の乱舞である。
のっけから美味しすぎるうううう!
あの甲高い歌声で、アクセサリージャラジャラのヒロインが薄いサリーをなびかせ、あやしい笑顔を振りまき快調に踊り唱っている。
早くも印度映画の神髄を観た思いに胸が熱くなりカレーのゲップ。言ってることはサッパリ解らん。
だが、そんなことは極めて些末にして些細なことである。
エンターテーメントとは言語を要しないのであーる。ストーリーはね、なんだかとってもお祭りなの。
数百人がピーヒャラドンなの。
すると悪人がきて、なんだか偉いオジサンを撃つの。
もうお祭りはてんやわんやの大騒ぎ。
たちまち興る剣劇のこえベベンベン。
で悪人はヒロインをさらって逃げるの。
ほんで、悪人は美しいヒロインに言うの。
「へへへ、オレ様の言いなりになれ」
「いやです、そんなことなら私は死にます」
「へへへ、それなら死んでみろ」
(以上、とつぜんヒンディー語が解るわたし)
するとヒロインは本当に滝から身を投げてしまうの。
ピューーーーーーーーー・・・・・。
おしまい。
本当にそれでおしまい。
映画って本当に面白いですね。
それでは、さよなら、さよなら・・・・。映画はストーリーじゃないよね。
やっぱしエンターテーメントよね。
そーゆー意味でもの凄く面白かった。「この女優の父親は▽■×のMPなり。母親は非常に有名な女優なり」
「かの麗しき舞姫は名をなんと申すや」
「○▽○なり」
「○◆▽なりや?」
「否、○▽○なり」
「うむ、困難なるや貴国のぷろなうんす」
「了承」
「あの男優もまた有名なり也?」
「否、ミディアムなり」
と、会話もはずむことったら大笑いだった。
(▽■×ズMPってなんだろーなぁ。憲兵なのかなぁ)で、映画の途中にCMがバンバン入るんですよ。
そのCMが、これまたわかりやすくいて良い。
商品があって、バックに美女が身体ピッタリドレス着てクネクネと踊って唱う。
そして美女が大写しになり斜め45度上目遣いに言う。
「エンプレス」
それだけ。
しかも美女はとびきりの美女だ。
あれならば私も「エンプレス」なる商品を買いたくなろうというモンだ。
カーマスートラの国は偉大なり。「いず ざっと てれびじょんむーびー?」
CMが入るので聞いてみたわけ。
「ノー ▲○◆」
「むーびーしあたーずむーびー?」
「イエース ◇▽○」
そーか、アチラでは映画にもCMがはいるのか。
さぞ広告代理店は儲かるであろーなー。
そこでフと気が付いたのであるが、椅子はいくらでもともかく、映画もCMもすこぶる面白い。
空いているのに印度氏は座ろうとしない。
ビデオの間中、私の脇に立ちっぱなしである。
椅子をすすめようとも思ったけど、もしヒンドゥーのカーストに因る、かの地の習いだったら却って失敬であるとも思ってやめといた。
そのビデオを印度氏から借りてみたいと思ったがその様な取引には誤解が入ると面倒なので、私のエーゴには荷が勝ちすぎると判断して諦めた。
(あとで思ったのだが、買い取りで交渉すれば良かった。
借りるより買うほうがズーッと簡単であるものね)で、こんだけ楽しんで750円である。
余りにも申し訳ないので100円だけ
「さんきゅー ふぉー ゆあー むーびー」
って言って渡したら、印度氏いたく喜んでおったげな。
お互いにめでたしめでたし。・・・てな訳でしてそーゆー訳なカレー屋さんでのひととき。
ひさびさに面白い思いをした土曜日でした。
あ、店の名前も食べた料理の名前も忘れた。
また今度も行く(かもしれない)からいーや。
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