-3- 第336号 | 平成12年3月10日 |
短期大学
これからの栄養指導
−明石家さんまに学ぶ−
短大教授 小 野 恵津子
テレビでお笑い番組を見ていると、数多くいるタレントのなかで明石家さんまはすごいなあ、と思います。
彼はどんな柏手に対しても、その人の言うことにうん、うんとうなづきながら決してその人の発言を否定せず、終りまでていねいに聞いています。相手の話が横道に脱線したり、あるいは彼の問いかけとちぐはぐな方向へ行っても、途中でさえぎらずに終りまで話を聞いています。
そしてこれは彼の特技だと思われるのですが、相手の話の合い間に、ときとして大きな身振りや笑い声をまじえながら相ずちを打ちます。初対面の人でも彼と話をしていると、いつの問にか緊張が解け、自分の気持ちを思わず率直に語り出していくようにみえます。
さんまのこのようなやりとりをテレビで見ていて、私は私たち栄養土が地域や病院・学校などで栄養指導する際、彼のように相手と気持ちの通った会話ができているのだろうか、とふと疑問をおばえたのです。
これからの栄養土が従来の給食管理だけではなく、「人」を対象とした栄養専門職として位置づけられるためには、より高度な専門知識が必要であると同時に、相談相手となるさまざまな人に対して、私たちが心をかよわせあって生きた相談業務を展開できるかがカギとなるでしょう。
相談を受ける人が私たちと接することにより、その人の生活習慣をより健康なライフスタイルヘ変えていけるきっかけを掴めれば、栄養指導の目的は、なかば達せられたといえるのです。
特に高齢者の場合には、その人に長年かかって根づいてしまった生活習慣を変えるというのは、大変な難事業です。私たちがたんに栄養学上の専門知識を伝えればその人の生活が変わるなどということは、現実に先ず起こり得ないでしょう。
私たち栄養土が、他者の固く築かれた心の行動様式のなかへ、やわらかく入り込み、その人の行動に変容を促すような意識づけを、実際にどうすれば起こすことができるのでしょうか。
さんまの天性とも見える自由奔放なやりかたを、払たちがひとつの技法として身につけることはできないでしょうか。
私たち栄養士は、そのためにもカウンセリングや臨休心理など人間の行動に変化をうながし得る分野から、もっと積極的に学んでいく必要があるのではないか、と思われるのです。
二十一世紀における健康づくり運動(健康日本21)は、保健・医療の分野で一次予防を重視していく、という新しい課題を私たちに提示しています。
この課題の実現を目指して、私たち栄養上が専門職としての役割をはたしていくうえで、明石家さんまの話法に学ぶべき点は少なくない、と思われるのです。
家政科
「脳で見る?」
短大助教授 藤井 輝男
我々はものを見るとき、目で見ていると誰しも思っています。
しかし、ものを見て(知覚・認識して)いるのは目ではなく、脳なのです。目は、外界からの光を網膜で受け取って電気信号に変換して、脳の視覚野と呼ばれる領域にその信号を送る単なる情報収集機関(脳の出先機関)に過ぎないのです。従って、目がなくても条件さえ整えば我々はものを見ることが出来るのです。こう書くと、そんな馬鹿な、いくら脳でものを見るといっても、目そのものがなければ見える訳ないじゃないかとと言う声が聞こえてきそうです。
今から十数年前、イギリスで百人(途中失明)の脳(視覚野と呼ばれる領域)に電極を刺し、微少電流を流したところ、その盲人はあたかも自分の目で見ているかのように映像が見えたという報告がありました。その映像は、ある時はその盲人のお姉さんの顔だったり、昔住み慣れていた家の風景だったりしたそうです。この話は、目そのものが機能していなくても、脳そのものを直接刺激することで、ものを見るという視覚的な体験は出来るということを物語っています。ただし、このイギリスの盲人の場合は、記憶像を見せられていたことになるのですが。それにしても、これから先、科学技術が進歩すれば、脳のいろんな部位を人為的に刺激できるようになって、目がなくても見ることが出来るようになるだろう、でも実現はまだまだ先の話だろう、と当時の私は考えていました。
それから十数年、今年になって、米国でそれが実現してしまったのです。小型テレビカメラと超音波を使った距離センサーを取り付けたサングラスと小型コンピュータ、盲人の脳(視覚野)に埋め込むための68個の電極からなる装置です。実際に着用した六十二歳の男性(三十六歳で失明)は、訓練の結果、1m50cm離れて5cm大の文字が読め、地下鉄の駅を歩けるようになったということです。
近い将来、視覚だけでな、聴覚、触覚、嗅覚、味覚の感蝕も同じように作り出すことが出来るようになることでしょう。そしたら、体のない電極を刺された脳味噌だけの人間(はたてそれを人間と呼べるのかどか)が出現するかも知れません。